
工作機械のオーバーホールってどういう意味?修理とは何が違うの?
このような疑問に対して、現役の工作機械商社の営業マンである僕が、工作機械のオーバーホールについて詳しく解説します!
工作機械のオーバーホールについて詳しく知りたい方、オーバーホールの作業内容、メリットデメリットについて知りたい方の参考になれば幸いです。
工作機械のオーバーホールとは?
工作機械の長期使用に伴い、摩耗や劣化が進むと、精度や性能が低下します。これを改善する方法の一つがオーバーホールです。本記事では、オーバーホールの概要、修理やレトロフィットとの違いについて詳しく解説します。
オーバーホールの定義
オーバーホールとは、工作機械を分解・点検し、摩耗した部品を交換・調整することで、機械本来の性能を回復させる作業のことです。
新品同様の状態に戻すことを目的とし、単なる修理よりも大規模なメンテナンスになります。
具体的な作業内容
オーバーホールの具体的な作業内容は以下の通りです。
(1) 事前診断
• 精度測定、動作確認を行い、劣化状況を把握する。
• 必要な交換部品や調整箇所を決定する。
(2) 分解・清掃
• 機械を分解し、内部の切りくずや汚れを除去する。特に摺動部や主軸周りの洗浄が重要。
(3) 部品交換・調整
• ガイド面のスクレーピング、摺動面の再研磨やきさげ。
・ボールねじ・ベアリングの交換。
• モータや電気系統の点検・修理。
(4)外観塗装
・必要に応じて外観の塗装を塗り直し。希望のカラーに変更も可能。
(5) 再組立て・精度調整
• 各部品を組み直し、摺動面のクリアランスを調整。
• 精度測定を行い、規定値内に収まるよう調整。
(5) 試運転・完成
• 実際に加工を行い、問題がないか最終確認する。
• 加工精度・主軸振れ・送り精度などをチェック。
実際はかなりの手間がかかります。予算内で実施するとなると、部品交換をするにしても、新品に交換しなければいけない部品と、まだ流用できそうな部品を見極めながら進めていく必要があります。
オーバーホールをする目的
ここまで手間がかかるオーバーホールをする目的は以下の3つが考えられます。
- 精度回復:摩耗した摺動面や軸受を調整・交換し、機械の加工精度を新品レベルに戻す為。
- 寿命延長:適切なメンテナンスを行うことで、同じ機械を長期間使用できるようにします。
- コスト削減:新品の機械を購入するよりも、オーバーホールで再生する方が低コストで済みます。
ずっと昔から使っていた使い勝手も良く剛性が高い機械を精度回復させたいユーザーや、新品の工作機械を購入するハードルが高い大手ユーザーなど、僕が工作機械商社で働いている中でもオーバーホールをしたいユーザーの声は多く感じています。
オーバーホール・修理・レトロフィットの違い
オーバーホールと似た概念として、修理やレトロフィットがありますが、それぞれ目的や範囲が異なります。以下の表で比較してみましょう。
項目 | オーバーホール | 修理 | レトロフィット |
---|---|---|---|
目的 | 機械の精度回復・寿命延長 | 故障した部分を直す | 性能向上・機能追加 |
作業範囲 | 機械全体の分解・点検・調整 | 壊れた部品のみ修理 | CNC化・最新技術の導入 |
対象部品 | 摺動面、ボールねじ、ベアリング、主軸など | 故障した部品のみ | NC装置、モータ、センサーなど |
コスト | 中程度(新品購入より安い) | 低い(一応の修理) | 高い(場合によっては新品と同等) |
導入効果 | 以前同様の性能に回復 | 最小限の機能回復 | 最新機能の追加・高精度化 |
例 | 20年使用した旋盤の精度を新品レベルに戻す | モーターが故障したので交換 | 古いNCフライス盤を最新のCNCに改造 |
簡単にまとめると以下の認識になります。
オーバーホール → 精度回復
修理 → 最小限の機能回復
レトロフィット → 最新機能の追加
オーバーホールを実施するタイミング
工作機械を長期間使用している中で、コストもそれなりにかかるオーバーホールを実施するタイミングはいつがいいんでしょうか。
こんな症状が出たらオーバーホールを検討!
- 加工精度の低下(公差が合わなくなった、面粗度が悪化した)
- 異常音、振動の発生(ガタつき、異音がする)
- 摺動部の摩耗が進行(ガイド面の傷、ボールねじの摩耗)
- 主軸の回転不良(軸受の摩耗、振れが大きくなる)
- メーカーの部品供給終了(新品の交換が難しい場合)
上記の症状が出てくると、まずは不具合箇所の修理を進める事が多いですが、不具合箇所が複数あったり、メーカー部品供給が終了している場合はオーバーホールを検討する良いタイミングと言えます。
以下では、オーバーホールを実施するメリットとデメリットを見ていきましょう。
オーバーホールを実施するメリット
- 新品の購入より安く済む(新品価格の半分程度で済むことが多い)
- 設備の長寿命化(適切なメンテナンスで20年以上使用可能)
- 機械の再調整で精度回復(加工品質の安定)
- 廃盤機種でも延命できる(部品交換や修正で継続使用が可能)
使い勝手の良い機械や新品で代替がきかない機械、出来るだけコストを抑えて精度回復させたいユーザーは、オーバーホールをするメリットがあると言えます。
一方で、オーバーホールには以下のようなデメリットもあります。
オーバーホールを実施するデメリット
- 作業に時間がかかる
- 新品より安いがそれなりにコストがかかる
- 専門的な知識が必要(ユーザー側も)
- 設備が使用できない期間がある
- 新技術や最新の製造ニーズに対応できない
オーバーホール業者が機械を引き上げて作業を実施する為、「設備が使用できない期間がある」というのは、余剰機械や他の設備で仕事が回せるという前提になるので、町工場や中小規模の工場にとっては、大きなデメリットだと感じています。
新品の工作機械を導入するのであれば、新品が納入されるギリギリまで旧設備を使う事ができます。
町工場や中小規模のユーザーでは、ギリギリまで修理して使い、壊れる寸前(または壊れたら)、新品の機械を購入する傾向にあると感じています。
また、全部の摩耗部品を交換するのが理想ですが、出来るだけ予算を抑えたい中では、流用する部品の選定や、オーバーホール業者との打ち合わせの中で、構造を理解する専門的な知識も必要になります。
まとめ
今回は工作機械のオーバーホールについて解説してきました。
✅ オーバーホールは、機械を分解・点検・調整し、新品同様の性能に回復させる作業。
✅ 修理は故障した部分のみを直すが、オーバーホールは機械全体の精度回復を目的とする。
✅レトロフィットは、新技術を導入して性能を向上させる改造のこと。
✅ 加工精度の低下や異常音、振動の発生があればオーバーホールを検討するべき。
✅ 新品購入よりコストを抑えつつ、機械の寿命を延ばすことができる。
工作機械は高価な設備ですが、適切なオーバーホールを行えば、長期間にわたって安定した性能を維持できます。工場の生産性向上のためにも、機械の状態を定期的に点検し、適切なタイミングでオーバーホールを実施し、良いものは長く使っていきたいですね!
それでは、また!
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